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世論調査「希望の党 敗因は小池百合子代表」は本当?

このブログでは基本的に政治的な内容は書かないことにしていますが、2017年10月22日に投開票された衆議院総選挙に関して、非常に興味深い世論調査のデータがありましたので紹介します。

選挙後、多くの国民は「希望の党失速は小池代表の言動が原因」と信じた

今回の選挙では自民・公明両党に新党「希望の党」が挑み、さらに野党第1党だった民進党が前原誠司代表主導で丸ごと希望の党に合流しようとしました。

ところが、希望の党代表を務める東京都知事・小池百合子氏の「(民進党の)全員を受け入れることはさらさらありません」「排除いたします」という発言が問題となり、枝野幸男・民進党代表代行が急遽「立憲民主党」を設立し、左派・リベラル派(とは言い切れませんが、便宜的な表現です)の民進党前議員・元議員が参加しました。

「排除の論理」はなぜ心を打たないのか 10月総選挙大波乱へ

総選挙では自公が圧勝したものの、立憲民主党の議席数が希望の党を上回って野党第1党になるという、予想外の結果となりました。

三者三様、希望の党敗北の原因

新聞・テレビなどのマスコミでは「排除致します」という小池氏の発言に批判が集中し、これが「希望の党が大敗した原因だ」と指摘されています。

ですが私は、党の組織構造が不明瞭で、選挙期間中は小池代表以外の役職が不明であり、候補者によって訴える政策がバラバラという「めちゃくちゃな組織」であることも要因だったと考えています。

また、一部のジャーナリストやSNS上の意見として「政策が悪かったのが大敗の理由だ」「むしろ完全に民進党議員を排除したほうが良かった」というものもありますね。

個々人により意見が異なるのは当たり前ですが、客観的に見ると、何が希望の党の敗因だったのでしょうか?

日本テレビ世論調査では「小池氏が原因」が過半数

答えを言ってしまうと、10月27日〜29日に行われた日本テレビの世論調査では「小池代表が希望の党大敗の原因だった」と答えた人が約56%に達しています。

正確には、「小池代表は国政よりも都知事の仕事を優先するべきだから」が28.9%、「小池代表が合流を希望する人の一部を排除すると発言したから」が27.1%です。

日本テレビ世論調査

  1. 小池代表は国政よりも都知事の仕事を優先するべきだから 28.9%
  2. 小池代表が合流を希望する人の一部を排除すると発言したから 27.1%
  3. 結果的に民進党に所属していた人の多くが希望の党から立候補したから 15.2%
  4. ほかの政党より優れた政策ではなかったから 14.6%
  5. その他 5.0%
  6. わからない、答えない 9.2%

いずれにせよ、希望の党の敗因は政策ではないし、「排除が不十分だった」とも言えないことがわかります。

この世論調査だけを見れば、「小池氏の態度と言葉が希望の党の敗北を招いた」と言えますね。

実は、「排除発言」直後も希望の党の支持率は高かった!

確かに、「東京都知事は都政に専念しろ」という指摘はもっともですし、「排除発言」を不快に感じた人も多いでしょう。

ですが、党首(代表)の力量が党への信頼性に直結するのが当然としても、政策ではなく党首の言動が投票行動に影響を及ぼすのは合理的でしょうか?

さらに言えば、小池百合子東京都知事が代表に就任し、「排除発言」を行った直後も、希望の党の支持率は高かったのです(正確には「支持率」ではなく「比例区での投票先」です)。

比例自民24%、希望14% 内閣不支持、支持を逆転  :日本経済新聞

まず、小池氏が希望の党を結党して代表に就任したのが9月25日、「排除いたします」と発言したのが9月29日です。

しかし、共同通信社が9月30日と10月1日に行った世論調査でも、比例区での投票先は希望の党が14%で、自民党の24%に次いで高いのです。

つまり、「『都政に専念しない小池氏』と『排除の論理』が希望の党の敗因」というのは後付けの理由でしかありません。

10月1日以降に起きた、最大の変化

では、10月1日以降に何があったのかと言えば、もちろん立憲民主党の誕生です。

9月28日の民進党両院議員総会では、全会一致で希望の党への合流を決定しましたが、前原代表の「排除されない」という説明が前提でした。

小池代表の「排除発言」によってその前提が覆され、枝野氏が捨て身の覚悟で立憲民主党を作ったからこそ、有権者は心を惹かれたのでしょう。

「枝野氏は排除されたからやむなく結党しただけで、筋を通してはいない」という指摘はもっともですが、おそらく有権者はそれを理解した上で投票しているはずです。

感傷は投票行動に直結する

「かわいそうな人達」、あるいは「逆境に立ち向かうヒーロー」という枝野氏らの姿は、投票先に迷う有権者の心を打ちます。

それによって、「都政に専念しない無責任な小池知事」、「血も涙もない排除の論理」が強調されることになったのでしょう。

センチメント(感傷)が投票行動に影響するのは、決して珍しいことではありません。

2005年、郵政民営化法案は衆議院で可決されましたが、参議院で一部自民党議員の造反により否決されました。

ところが小泉首相(当時)は郵政民営化の是非を争点に衆議院を解散し、郵政造反組に対して「刺客候補」を擁立するなど「小泉劇場」を展開します(なお、小池百合子氏も刺客の一人です)。

冷静に考えれば、「郵政民営化法案は衆議院で可決されたのだから、衆議院を解散する必要はない」のですが、国民は見事に熱狂しました

「国民は小泉氏の改革姿勢を支持したのだ」という意見もありますが、ならば以前の選挙でも小泉自民党が大勝したはずです(2003年の衆院選では民主党が177議席を獲得しましたし、2004年の参院選では民主党が50議席を得て自民党の49議席を上回っています)。

合理的な有権者は実在するのか?

こうやって事実を見ていくと、政治学でよく言われる「合理的な有権者像」なんて本当なのかな? と思ってしまいます。

政党に問われるのは政策と政権担当能力であって(少なくとも後者は、代表である小池氏の資質も問われますから、現在の希望の党に欠けるものですが……)、お涙頂戴の物語ではないはずです。

私は改憲にも安保にも反対ですが、それを声高に叫ぶだけでは建設的な議論ができませんし、金融緩和や公共事業に頼らず大胆な規制緩和を行うことが必要だと考えています。

ですから、個人的には希望の党にはがんばってもらいたいのですが、「政策が有権者に否定されたわけではないのに負けた」(前述の日テレ世論調査を参照)というのは何とも不条理ですね。

スティーブ・ジョブズは「一流のセールスマン」だった

それはそうとして、私は政治的な主張をしたいわけではなく(数行前でいろいろ言ってますが)、「政治でも商品のセールスでも、中身と同じくらい言葉が重要だ」ということを強調したいんです。

たとえば、Apple創業者の故・スティーブ・ジョブズ氏に対する批判として「スピーチこそ上手いが、商品開発はほとんど部下が行っていた」というものがありますね。

根拠は示しませんが、ネット検索で「スティーブ・ジョブズ 神格化」とでも検索すればいくらでも情報が出て来ます(もちろん否定的な内容ですので、ファンの方はご注意下さい)。

では、ジョブズ氏は話が上手いだけで何の能力もなかったかと言えば、そんなことはありません。やはりジョブズ氏は天才だったと断言できます。

仮に、以下のようなiPhoneの宣伝文句があったとして、あなたは買いたくなりますか?

  • iPhone 6のRAMは1GBです。一方、同時期に発売されたGalaxy S6のRAMは3GBです。
  • iPhone 6の解像度は1334 x 750ピクセル、Galaxy S6は2560 x 1440ピクセルです。
  • スペックはGalaxy S6が優れていますが、iPhone 6はRetina HD displaysにより鮮明な表現が可能ですし、iOSとのシームレスな連携により1GB RAMでもアプリがスムーズに動作します。
  • また、iPhone 6のiOSは発売後4年にわたってメジャーアップデートされるため、2年に限られるGalaxy S6より経済的です。

……こんなふうに淡々と「スペックはGalaxy S6が上だが、実際の使用感はiPhone 6が優れている」と言われても、納得するのは相当スマートフォンに詳しい人だけです(たとえば私のように)。

スマートフォンのことをよくわかっていない大多数の消費者は、「ふーん、両方ともすごいね。だから何?」と思うだけで終わりでしょう。

ここではスペック差を表現するためにジョブズ氏没後のiPhone 6とGalaxy S6を比較していますが、それ以前のモデルでも同じことです。

消費者が求めるのは、スペックではなく物語だ!

では消費者にiPhoneを購入してもらうには何が必要かと言えば、「『買いたい』と思える物語」ですね。

「想像してみてください。iPhoneがあれば、あなたの生活はいまよりずっと豊かに、楽しくなるんですよ!」というメッセージです。

それは空虚な宣伝文句ではなく、身振り手振りを交えて情熱的にプレゼンするスティーブ・ジョブズの姿です。

もちろん、いくらプレゼンが上手くても、仮にiPhoneが全てにおいてGalaxy(Android)に劣っていれば、売れるはずなどないでしょう。

ですから、「総合的に見れば優れているiPhone」という事実と、「iPhoneを持つことで素敵になれるあなた」というメッセージ(物語)の両方が合わさって、初めて消費者の心が動きます。

政治にも物語が必要?

iPhoneと同じく、郵政選挙も、民主党への政権交代も、国民を惹きつける「物語」があったからこそ実現したのだと思えてなりません。

もちろん、ストーリーだけ用意すれば選挙に勝てるわけではありませんから、根拠となる政権公約(マニフェスト)は必要です。

それでも、「どんなに商品が良くても、宣伝が下手なら売れない」ということは、スマートフォンでも選挙でも似たようなものでしょう。

今回の希望の党の敗因は、「安倍政権を倒す改革者・小池百合子」という当初の物語が、いつの間にか「強権的で無責任な小池百合子」と「筋を通す英雄・枝野幸男」の物語にすり替わったのが原因です。

本当に、政局ではなく政策で候補者・政党を選ぶ時代になってほしいものですが、日本でも、それ以外の国でも、国民の感傷が政治を動かす時代は終わりそうにありません。

政治家のみなさんのみならず、何らかのセールスやアフィリエイトを行っている皆さんも、覚えておいて損はありませんよ!

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