ネットはなぜ炎上する? NHK「不寛容社会」まとめ
ネット炎上が急増している
2016年6月11日・土曜日、NHK総合テレビで「NHKスペシャル・不寛容社会」という番組が放送されました。現代の日本で「他者の問題行動や自分とは異なる意見を見過ごすことができず、厳しく批判する」不寛容な人が増えている問題をテーマとするものです。
番組の内容は、NHKのサイトにまとめられています。不寛容社会についての世論調査結果が公表されているほか、一部の動画を無料で視聴できます(2016年6月18日現在)。
【NHKスペシャル】 私たちのこれから Our Future|NHK
不寛容とは、たとえば客が店員に当たり散らしたり、ベビーカーを押す女性が邪魔者扱いされたり、自分の考え方と異なる主張をする人をすぐに攻撃・排斥しようとすることです。
ではなぜ、不寛容な人が増えたのでしょうか? わかりやすい答えは、社会の変化ですね。そして社会が変化した最も大きな要因は、インターネットとスマートフォンの普及です。
この番組でも、主な論点はネット上における不寛容なユーザーとなっていました。つまり一言でいえば「なぜネットは頻繁に炎上するのか?」ということです。
ネットでの炎上が起きる原因として、番組では次のような理由が挙げられました。
- 情報環境の変化(SNSやスマートフォンの普及)により、一部の人が過激な主張を発信しやすくなった
- 炎上(リツイート50回以上)数は2010年に年間約100件だったが、2015年は10倍の約1,000件だった
- スマートフォンの契約数は2011年に約1,000万件だったが、2015年は7,200万件以上と7倍になった
- 日本のTwitter利用者は2011年670万人、2015年3,500万人
- マスコミにしか発言権がない頃は、少数意見は取り上げられなかった。ネットで誰もが主張できるようになった
そして、誰もがネットで主張できるようになったために企業やマスコミ、個人は炎上を恐れ、萎縮して自主規制するようになるのです。
番組でも、文具メーカーがネット炎上を受けて虫が表紙に描かれたノートの販売を中止した事例が取り上げられましたし、「政治家がマスコミに圧力をかけているわけではないが、マスコミの側が批判を恐れて萎縮してしまっている」という意見もありました。
誤りを指摘する批判はむしろ減っている?
私(ふみびと)の印象に残ったのは、ある出演者の「昔は視聴者に『お前は間違っている』と批判されたのに、今はネットで『テレビに出るな・出すな』と言われる」という発言です。
これは私個人の考え方ですが、「誤りを指摘せず、出演をやめろと主張する」視聴者が増えたのは、「世の中に絶対的な正誤は存在しない」と考える人が増えたからではないでしょうか?
たとえば、「私は絶対に正しい。反対派は間違っている」という信念を持つことができれば、堂々と「お前は間違っている」と主張できますね。
ただ、冷静に考えてみると、世の中に絶対的な正誤・善悪というものはなかなか存在しません。どれほど過激な思想でも、地域や時代が違えば常識になることがあります。
そして、インターネットの普及によって、自分とはまったく異なる価値観に触れることも容易となり、絶対的な正誤・善悪は存在しないことを認識しやすくなっています(ただし後述のように、次第に自分と同じ考え方の人としか接しないようになります)。
ですから、公平に発言しようとすれば「私は正しく、同時に間違っているし、あなたも正しく、同時に間違っている」としか言うことができなくなります。
ただ、これでは何も言っていないに等しいですね。大体、自分と違う意見を持つ人を批判できないので気分が悪い(?)です。
そこで、正誤には触れずに「テレビに出るな、SNSをやめろ」とネットで言うことで、「お前は絶対的に間違っているんだ」という誤った主張をすることなく、気に入らない人を攻撃できるわけです。
ネットが招いた不寛容社会
ここで、出演者から「今の日本は本当に『不寛容社会』なのか。インターネットがない頃も同じだったのではないか?」という疑問が呈されました。
その疑問に対して、次のような意見がありました。
- テレビの討論番組には司会者がいて、議論が白熱するとなだめてくれる。ネットには司会者がいないから炎上する
- 居酒屋に集まると意見が違う人とも接したし、まとめが役いた。今の若者はネットで相手を選別するので、違う意見の人と触れ合わなくなる
- 反論…昔の討論では、本当に他者の意見に耳を傾けていたのか?
- 日本は昔から不寛容社会で、ネットの炎上により可視化されただけではないか?
スタジオでははっきりとした結論が出ませんでしたが、確かに日本は昔から村社会=不寛容社会だったように思います(日本ほどではないにせよ、ほかの国も同様でしょう)。ただ、面と向かっては言えないこともありました。それがネットで簡単に言えるようになったせいで、炎上が急増したわけですね。
そして、この後にインターネットは対立を先鋭化するメディアであるという研究結果が示されました。
東京大学によるTwitterユーザーの研究
東京大学大学院の鳥海不二夫准教授は、ALSアイスバケツチャレンジ(ALS=筋萎縮性側索硬化症の患者を励ますために、氷水を頭からかぶる運動)に関する67万件・31万人分のTwitter上の投稿を分析しました。「すばらしい」「患者を支援しよう」という好意的な意見がある反面、「偽善だ」「水の無駄」という批判的な意見もありました。
およそ500人のグループが、この取り組みに強く反発していました。その一方で、強い賛意を示すグループもありました。反対・賛成とも、同じグループの意見だけをリツイートする傾向があります。
ところが、反対・賛成という2つのグループ双方をリツイートする人は、一割にも満たなかったのです。
鳥海准教授は「議論がぶつかり合っていると思ったが、あまりそういうことはなく、反対派は反対派、賛成派は賛成派で固まっている。お互い違う世界で議論。議論でもない、もはや、意見を言っているだけという構図が見えてきた」と語ります。
さらに、ALS患者自身がこの取り組みに感謝するツイートを行ったにもかかわらず、反対派はリツイートせず無視しました。
つまり、「ネット上では自分に近い考え方しか受け入れられず、ますます意見が偏ってしまう」ということですね。
ネットを使えばさまざまな考え方の人と触れ合えるはずなのに、結局は村社会に閉じこもってしまうというわけです。番組ではこれを「壁」と表現しました。
ちょっと考えてみてください。あなたは好きな芸能人を応援するブログを開設して、アクセスを集めることができたとします。あなたは「これで、より多くの人がこの芸能人を応援してくれるだろう」と考えます。
ただ、集まるのは元々その芸能人のファンだった人ばかりで、アンチはアンチのままです。「壁」がありますからね。
反対に、好きな芸能人を批判するブログを見かけたとしたら、あなたはその内容を信じるでしょうか? おそらく信じないか、信じてもその芸能人を応援し続けるでしょう。「壁」の向こう側の意見など聞くに値しないからです。
ネットの特性を考えれば、自分と同じ意見にだけ同意しようとするのは当然です。スイッチを入れれば受動的に番組を見られるテレビと違い、ネットでは能動的に検索しなければ情報を手に入れられません。そして検索するのは、関心があることばかりでしょう。
思考はどんどん偏っていき、世界は「壁」で隔てられた「こちら側」と「あちら側」になります。普段交流するのは「こちら側」の人ばかりですが、ふとした拍子に「あちら側」が垣間見えた時、自分達との違いを受け入れられない「こちら側」のみんなの怒りが爆発して炎上を起こしてしまう、というわけです。
社会心理学の研究でも、集団は必ず対立する事、インターネット上のコミュニケーションでは感情を伝えにくい事が示されています。
ネット炎上を防ぐにはどうすれば良い?
番組で取り上げられた研究結果からは、ネットには「壁」があり、人を動かすことはできないとわかりました。「ネットのおかげで自分は発言権を得た。自分の思いをどんどん発信しよう」と考える人にとっては落胆させられる事実です。
さらに、積極的に情報収集・発信を行えば行うほど思考が偏ってしまい、同じような人ばかりが集まり、自分達と異なる考え方を見かけた時にそれを受け入れられず、炎上を起こすようになってしまいます。
確かに、大企業やマスコミに圧力をかける手段としては、個人が集合して炎上を起こすことは有効でしょう。昔は個人の声は無視されたのですから、まさに誰もが発言権を得たことになります。
ただし、炎上は飽くまでも一方的な圧力であって、「対話」ではありませんね。話し合って他者の考えを知り、知見を深めることはできません。巨大な組織に立ち向かうならともかく、個人対個人の炎上は不毛です。
炎上したりされたりするのを防ぐためには、ネットの利用をやめるべきでしょうか? それは難しいですよね。そこで私は、他者に煩わされずにネットを使用し、炎上を防止する方法を考えました。
- 反対派(アンチ)に批判されても、炎上しても無視する
- ネットは情報収集ツールだと割り切る
- ネットの外に活路を求める
最初の「反対派を無視」は、炎上を未然に防ぐというより、炎上しても「なかったこと」にしてしまうということです。いわば、延焼防止です。
あなたに反対する人には何を言っても無駄なのですから、あなたは「私も反対派も偏っている」と認識しつつ、あなたの気持ちを発信し続ければ良いのです。慌てずに炎上が収まるのを待ちましょう。
もちろん、情報発信は正確に行わなければなりませんし、文章や画像もできるだけ穏当なものとしましょう。炎上した時に「自分に非がある」と自覚している場合は、ブログやSNSをやめるなり、謝罪するなりの対応が必要です。
逆に、あなたと考え方が違う人を見かけて腹が立ったとしても、「何を言っても時間の無駄だ」と考えて無視しましょう。炎上を起こす側にならないことも大切です。
「自分と異なる意見の人とも対話すべきではないか?」というお叱りはごもっともですが、前述の東京大学の研究通り、いくらネットで反論しても謝っても、考え方が違う人には納得してもらえません。炎上にガソリンを投入するだけです。
ただし、ネットで批判されても炎上しても平然としていられるほどの精神力の強さ(図太さ)がなければ、この対処法は実行できません。しかも、結局「壁」はなくならず、あなたと反対派の思考はますます偏っていきます。
2番目の「情報収集ツールだと割り切る」は、そのままの意味です。ネットを不特定多数とのコミュニケーションツールと捉えるのはやめて、発言をやめましょう。ブログ・SNSを使い続けるにしても、炎上しそうな事柄に言及するのはやめましょう。黙っていれば誰にも批判されず、「壁」もできませんから、炎上など起きようがありません。
身も蓋もない事を言ってしまえば、これこそ「萎縮」なのですが……。安心してください、あなたが何か言おうが言うまいが、ネット上の意見はまったく変化しません。対極に位置する2つの集団は、いつまでもネット上で争い続けるでしょう。
リアルでの対話が重要
では、最後の「インターネットの外に活路を求める」について説明します。
ネットで人の意見を変えることはできず、対話しようとしても炎上するだけです。言い換えれば、ネットの外では人の意見を変えられる可能性があるということです。
たとえば、オフ会に出席したことがある方は「ネット上とリアルでは全然印象が違った」という経験がありませんか? 同じように「インターネット上では意見が合わなかったけれど、直接会って話してみたら、意外といい人だった」という事があるかもしれません。
もちろん、ネットで知り合った人ひとり一人と直接会うのは困難です。ただ、家族や友人と社会的な問題について話し合い、自分の考えを伝えたり、相手の意見を聞いたりするのは有意義ではないでしょうか? 討論会に出ても良いかもしれませんね。
具体的にどのように対話を行えば良いかは、こちらの書籍が参考になります。
私の結論は、「ネットの炎上は防げない。ならば、リアルで話しあえば良い」というものです。
みなさんも部屋でスマホばかりいじってないで、たまには外に出たほうがいいですよ!