原爆CM影響せず Xiaomi Redmi Note 9Sが売上ランキングトップ10入り
2020年4月30日、中国・Xiaomiが日本で発売予定のスマートフォン「Redmi Note 9S」のCMに原爆を連想させるイメージを用いて問題となりました。
しかしXiaomi Redmi Note 9Sは6月9日の日本発売後の売れ行きが好調で、ユーザーはこの問題を気にしていないことが伺えます。
Xiaomiの「原爆CM」は何が問題か
中国に本社がある総合IoT家電メーカーのXiaomi(シャオミ、小米)は、コストパフォーマンスが高いスマートフォンを販売することで知られています。
日本のマニアも以前からXiaomiスマホを個人輸入するなどして楽しんでいました(まぁ違法なんですけどね)。
日本市場正式参入が待ち望まれる中、2019年12月16日、Xiaomiは日本で「Mi Note 10」を正式に販売開始しました。
もっとも、この「Mi Note 10」および上位機種の「Mi Note 10 Pro」は、約6万円という価格のせいもあってあまり売れなかったようです。
その後、2020年4月30日になり、Xiaomiは新機種「Redmi Note 9S」の日本向けCMをYouTubeで公開しました(その後削除されています)。
しかし……。
- 白人男性?が寿司を食べる
- 男性がどんどん太っていく(役者ではなく、人形型風船に切り替わっている)
- 男性(の形をした風船)が屋根を突き破って上昇。背景は東京?
- 上空で男性が爆発
- きのこ雲と共に「FAST CHARGE」の文字が表示される
……という、長崎に投下された原爆(Fat Man)を連想させる内容だったため、インターネット上で炎上しました。
なお、「原爆を連想させる場面」は2分5秒のCMのうち15秒ほどであり、CM全体が日本を揶揄する内容というわけではありませんでした。
これは憶測ですが、そもそもこのCMを制作したスタッフは「きのこ雲が原爆を連想させる」とさえ思っていなかったのではないでしょうか。
それでも、批判の声が高まったためか、Xiaomiは5月6日にTwitterに日本語で謝罪文を掲載しました。
この問題の経緯は、以下の記事で詳しく説明されています。
中国スマホメーカーのXiaomi、CMで長崎の原爆を連想させる表現で炎上。謝罪へ(篠原修司) - 個人 - Yahoo!ニュース
批判したのは一部ネットユーザーのみ?
中国企業であるXiaomiの日本での知名度が低いせいもあるでしょうが、私が調べた限りではこの問題を報じた新聞やテレビ局はありませんでした。
被爆者団体や長崎市、広島市がXiaomiに抗議したというニュースもありません。
おそらく一部のネットユーザーが批判しただけで、世間にはこの問題がほとんど知られなかったと言えます。
しかし、一部の人にしか批判されなければ問題ではないとは言えません。仮にApple, Google, Samsungなどが同様のCMを作れば大問題になったでしょう。
日本が加害者になる場合も同様で、仮に日本企業が中国市場で日本の戦争犯罪を肯定する発言を行えば、外交問題にまで発展することは間違いありません。
先ほどの記事でも触れられていますが、Xiaomiは2017年にも幹部が公然と日本を侮辱する発言を行っているため、ユーザーの気持ちを慮らない企業文化があるのではないかと勘ぐってしまいます。
日本ユーザーの心情を理解しないXiaomi
もっとも、「Xiaomiがどれほど日本を侮蔑しようとも、高品質低価格の製品を日本で販売してくれるなら構わない」という考え方もあります。
ですが、そもそもXiaomiのように日本のユーザーの気持ちを理解しない企業が、日本市場に適したマーケティングを行えるのかと疑問です。
「『お客様は神様です』と思え」とまでは言いませんが、お客様にサービスや製品を提供する企業であれば、「お客様に奉仕したい、喜んで頂きたい」と考えて当然ではないでしょうか?
そのために、徹底的な市場・消費者のリサーチを行います。
つまりXiaomiが日本市場を適切にリサーチしていれば、原爆を連想させるイメージをCMに使うはずがないということです。
過去には日本企業も……。
今回はXiaomiという中国企業の日本蔑視が問題になりましたが、過去には日本企業が日本人に対して同様の問題を行ったことがありました。
1988年、大阪市に本社がある大手飲料メーカー・サントリーの佐治敬三社長(当時)が、民放の報道番組で「首都移転論」について問われました。
その中で佐治氏は「仙台への首都移転を考える人がいるようだが、東北は熊襲(くまそ)の産地で文化的程度も低い」との趣旨の発言を行いました。
もちろん「東北は文化的程度が低い」というのは佐治敬三氏の思い込みですし、そもそも熊襲は古代の九州南部に存在した人々であり、東北とは無関係です(手塚治虫の「火の鳥」に出てくるクマソのモデルですね)。
それでも、佐治敬三氏の「東北熊襲発言」に東北地方の人々は猛反発し、以後、東北ではサントリー商品の売れ行きが悪くなった……と言われています。
Xiaomiの「原爆CM」や「日本蔑視発言」も、日本人に対して同様の反発を起こさせるのではないでしょうか。
「原爆CM」影響なし? 日本でXiaomiが売上ランキング上位に
……と言いたいところですが、日本の消費者はXiaomiの「原爆CM」をあまり気にしていないようです(ほとんど報じられていないこともあるでしょうが)。
その証拠として、全国の家電量販店・ネットショップの売上を集計した「BCNランキング」のスマートフォン売れ筋ランキングを見てみましょう。
2020年6月10日の日次集計データでは、Xiaomi Redmi Note 9Sが6位となっています。
注目のRakuten Miniがトップ、2位にGalaxy A7がランクイン! スマートフォン売れ筋ランキング - BCN+R
具体的な販売台数は記載されていませんが、1位から10位までのランキングは以下の通りです。
- Rakuten Mini
- Galaxy A7
- AQUOS sense 3
- iPhone SE 64 GB (au)
- iPhone SE 128 GB (au)
- Redmi Note 9S 6 GB + 128 GB
- iPhone SE 64 GB (SoftBank)
- iPhone SE 64 GB (docomo)
- iPhone SE 128 GB (SoftBank)
- Galaxy A20
もっとも、このランキングは2020年6月10日の一日間だけが対象であり、次の日次集計データである12日のBCN売上ランキングにXiaomi Redmi Note 9Sの姿はありません。
スマホランキング1位になった機種は! AQUOS sense3はiPhone SEを抜いて2位に! スマートフォン売れ筋ランキング - BCN+R
それでも、iPhone SEが非常に強い日本市場で「瞬間風速」とはいえXIaomi Redmi Note 9Sがトップテン入りを果たしたことは驚きに値します。
価格.comのランキングでも上位に
さらに、価格.comのスマートフォン 人気・注目ランキングではXiaomi Redmi Note 9Sが5位となりました。
このランキングは 2020年6月16日14時20分時点のものです。
売上ランキングではなく「価格.com独自の基準」で集計されているため(詳細は非公表)、信頼性にはやや疑問があります。
それでも、少なくともコストパフォーマンスに敏感な価格.comユーザーの間ではXiaomi Redmi Note 9Sの人気が高いことが窺えますね。
なお、1位から4位までは以下のようなランキングでした。
- Xperia 1 II
- iPhone SE (第2世代)
- OPPO Reno A
- Xperia 10 II
Twitterを見ていると、「Redmi Note 9Sが気になるが、Xiaomiは原爆CMの問題があったから買わない」という人は確かにいました。
しかしながら、「原爆CMは気になるけれど、Redmi Note 9Sは良い製品だから買う」という人もそれ以上に存在したのです。
つまり、「原爆CM」は買うか否かの判断に影響していないと考えられます。
「コスパ良し」でも…問われるXiaomiの企業倫理
このように「コスパの高さ」でいきなり大人気となったXiaomi Redmi Note 9Sですが、私は「原爆CM」や「日本蔑視発言」は無視できないと考えています。
企業として、その姿勢はどうなんだ
まず、私は国家 and/or 民族と個人はまったく別であると考えており、不特定の「日本」または「日本人」が侮蔑されたとしても、私自身が侮蔑されたとまでは感じません。
ですが、全人類・全ての生物に対する犯罪である原爆の使用を、唯一の戦争被爆国である日本を連想させる形でCMのイメージとすることは許されません。
また、就職活動中の中国人学生に対し、日本を揶揄しながら批判の範囲を超えた中傷を行うことは、企業倫理上認めてはならないことです。
何も「反日は許さない」とまでは言いません。Xiaomiの経営陣と従業員がどのような思想を持っていても、それは個々人の自由です。
ですが、客商売である以上、それを公の場でやってはいけないだろうという一線を超えたように思えてなりません。
ユーザーもXiaomiに厳しい目を向けるべき
一方、こういったXiaomiの姿勢を問題視しない日本の消費者に対しても疑問を感じます。
先ほども述べましたが、消費者が「どのような思想の企業であれ、安くて品質が良い製品を提供してくれるなら構わない」と考えるのは自由です。
同様に、凶悪犯が優れた芸術作品を作った際にも「作者の人格と作品の評価は別だ」と捉えることはできます。
ですが、この考え方を政治の文脈に当てはめると、「政策が優れた政治家ならば、差別的な思想の持ち主でも、いくら不祥事を起こしても支持できる」ということになります(というかそれが日本の現実です)。
つまりこの考え方は「自分が直接的な被害を受けなければ、悪事を見逃しても構わない」ことを意味します。
日本のXiaomiユーザーも「『原爆CM』はXiaomiスマホの良さとは無関係だ」と考える、刹那的な(良く言えば「ナショナリズム的ではない」?)人が多いようです。
ですが、「果たして製品の価値を企業の倫理観と切り離して良いのか」という疑問が残ります。
Xiaomiは快進撃に奢らず「冷静で常識的で上品」になるべき
ヤンキー的とでも言いましょうか……。「コスパがいい商品を出せば無茶してもいいだろう」と考えて突っ走るXiaomiの経営者、そしてそれを熱狂的に受け入れるユーザー。
勢い良く成長してきたXiaomiという企業だからこそ、「立ち止まり、冷静に考える」という文化が欠如しているように感じます。
また、Xiaomi創業者の雷軍氏は「中国のSteve Jobs」とも呼ばれますが、XiaomiはAppleのヒッピー的な性質まで受け継いでしまったのではないでしょうか?
お役所的でも大学の講義のようでも構いませんから、もうちょっと常識的に、上品に振る舞ってほしいと思います。
誤解しないで頂きたいのですが、私は何も「Xiaomi製品を買うな」と言いたいわけではありません。
そうではなくて、「世界的な企業であるならそれにふさわしい振る舞いをすべきだし、ユーザーもそれを企業に要求すべきである」ということです。
たとえ今は成長できているとしても、一部の熱狂的なファン(Mi Fan, 米粉)のみならず、より常識的な消費者に支持されなければ、Xiaomiは少なくとも日本市場では生き残れません。