OPPOとXiaomiも制裁対象の危険性? HUAWEIに続きアメリカ政府が規制か
2020年8月7日、一部ニュースサイトが「アメリカ・トランプ政権がHUAWEIに続いてOPPOやXioamiなど中国メーカーを規制する方針」と報じました。真偽を検証します。
アメリカ・トランプ政権の「Clean Network」で中国スマホ全規制の危険性?
いわゆる「中華スマホ」を愛用するユーザーには心配なニュースが飛び込んできました。
中国の通信機器大手・HUAWEI(ファーウェイ、華為)のスマートフォンは、2019年夏頃から「安全保障上の理由」でGMS(Google Mobile Services)を搭載できなくなり、ユーザーがGoogle Playからアプリをインストールできない不利益が生じています。
今回はHUAWEIに加えて、ZTE、OPPO、Xiaomi(シャオミ、小米)などの中国メーカー製スマホもGoogleのサービスを使えなくなる可能性があると噂されているのです。
ただし、あくまでも噂の段階であり、確定したわけではないことに留意してください。
以下、報じられたニュースを確認していきます。
アメリカ・トランプ政権による「Clean Network」計画
2020年8月7日(金曜日)に「OPPO・Xiaomiなど『中華スマホ』にアメリカ企業のアプリをインストールできなくなる」と報じたのは、ITニュースサイトのTechCrunchとITmediaです。
中国スマホメーカーはトランプ政権の規制策で米国アプリインストール不可に | TechCrunch Japan
米トランプ政権、中国を5つの分野で締め出す「Clean Network」立ち上げ - ITmedia NEWS
TechCrunchの記事は英語からの翻訳です。原文は以下です。
More Chinese phone makers could lose US apps under Trump’s Clean Network – TechCrunch
上記のニュースサイトで言及された「Clean Network」とはどのような計画でしょうか?
「Clean Network」の5項目を簡潔にまとめます。
- Clean Carrier…中国の通信事業者(日本で言うdocomo・auなど)をアメリカの通信事業者に接続させない
- Clean Store…アメリカ企業が運営するアプリストア(Google Play, AppStoreなど)からTikTokなど中国企業製のアプリを排除する
- Clean Apps…信頼できない中国企業製スマートフォンへのアメリカ企業製アプリのプリインストールおよびダウンロードを規制する
- Clean Cloud…Alibabaなど中国企業のクラウドにアメリカのデータを保存させない
- Clean Cable…インターネットに接続する海底ケーブルへの中国の侵害を阻止する
- Clean Path…HUAWEIやZTEなど、中国共産党の指示に従うITベンダーからの5G通信パスを使用しない
このうち、消費者に最も深刻な影響を及ぼすのは「Clean Apps」ですね。
仮に「中国企業製のスマホにアメリカ企業のアプリをインストールさせない」という計画が現実になれば、アメリカ企業であるGoogleのアプリも中華スマホで使えなくなるからです。
Android OSはオープンソースなので中国企業も自由に使えますが(これはHUAWEIも同じ)、GmailやGoogle Maps、YouTubeといったアプリが使えないのは……ちょっと考えられませんね。
ただし、Clean Networkがいつから実施されるのか、OPPOやXiaomiも規制対象になるのか、アメリカ以外の国にも要請されるのかは不明です。
次の節で、アメリカ国務省の公式文書を読みながら、これらの真偽について考えます。
国務省の文書ではOPPO・Xiaomiは制裁対象ではない!
以下のリンクは、「Clean Network」について解説するアメリカ国務省の公式サイトです。
The Clean Network - United States Department of State
上記のサイトから「Clean Apps」について解説する箇所を引用します。
To prevent untrusted PRC smartphone manufacturers from pre-installing—or otherwise making available for download—trusted apps on their apps store. Huawei, an arm of the PRC surveillance state, is trading on the innovations and reputations of leading U.S. and foreign companies. These companies should remove their apps from Huawei’s app store to ensure they are not partnering with a human rights abuser.
特に重要な冒頭部分を翻訳します。
「信頼できないPRC(中華人民共和国)メーカー製スマートフォンが、信頼できる(アメリカ製の)アプリをプリインストールしたり、あるいは逆にそれら(中国メーカー)のアプリストアでダウンロードを可能にすることを防ぐ」
この通り、OPPOとXiaomiはアメリカ国務省に名指しされているわけではないのです。
「untrusted PRC smartphone manufactures」(信頼できない中国のスマホメーカー)とは記載されていますが、ここにOPPOとXiaomiが含まれるのかは不明です。
「全ての中国スマホメーカーが信頼できない」のか、それとも「中国のスマホメーカーの中には、信頼できない企業もある」のか……。
解釈によってOPPOとXiaomiが規制対象となるか否かが分かれますので、現時点では何とも判断できません。
なお、HUAWEIは「PRC surveillance state」(中国の監視状態)にあると名指しされており、完全にアウトです。
ZTEも既にアメリカ政府から名指しで「中国共産党と関係がある」と言われています。
「信頼できる企業」にも言及されている
なお、「Clean Network」の文書ではHUAWEIやZTEのような信頼できない企業のみならず、「信頼できる企業」についても言及されています。
ただし、通信網を提供する企業であって、通信機器とスマートフォンのメーカーではありません。
一部を挙げると以下の通りです。
- アメリカのAT&T, Verizon, Sprint, T-Mobile
- 日本のNTT, KDDI, SoftBank, 楽天
- 韓国のKT, SK Telecom
- 台湾の亞太電信, T STAR, 遠傅, 中華電信, Taiwan Mobile
……などです。他にはインドやヨーロッパ、カナダなどの企業も含まれています。
しかしはっきり言えるのは、中国企業は含まれていないということです。
日本の携帯電話会社もOPPOとXiaomiを販売!
アメリカ国務省が「Clean Network」計画を発表した前後にも、日本の携帯電話会社はOPPOやXiaomiのスマートフォンを販売開始しています。
たとえばau(KDDI)は、2020年7月16日にOPPO Find X2 Proを発売し、9月以降にXiaomi Mi 10 Lite 5Gを発売する予定です。
- ASCII.jp:au、OPPOの5G対応最新フラグシップ機「Find X2 Pro」を発売
- auのXiaomiスマホ「Mi 10 Lite 5G」は9月以降発売で4万円台前半 スペックも明らかに - ITmedia Mobile
2019年夏には、HUAWEIがアメリカの制裁対象となったため、スマートフォンが発売延期される出来事がありました。
一方で、2020年8月の段階では、OPPOとXiaomiのスマートフォンがアメリカの制裁によって発売延期・中止になったという報道はありません。
auなど通信事業者側からも、「OPPOとXiaomiのスマートフォンには危険性があります」といったアナウンスは一切ありません。
ですから、今のところはOPPOとXiaomiのスマートフォンがアメリカによる制裁を受ける危険性はない、と言えるのではないでしょうか。
現時点での結論は「『今は』OPPOとXiaomiは規制されない」
アメリカ政府の「Clean Network」計画のうち、スマホに関係する「Clean Apps」についてわかっていることをまとめます。
- この計画は「『信頼できない中国企業のスマホ』に、アメリカ企業のアプリをインストールできなくする」ものである
- 「信頼できない中国企業」にOPPOとXiaomiが含まれているかは不明(少なくとも名指しはされていない)
- 期限は記されていない(Clean Network計画は発表と同時に開始されている)
……よって、「通信分野から中国を排除するClean Network計画は既に開始されているが、OPPOとXiaomiは対象となっておらず、少なくとも今すぐ規制される危険性はない」というのが、現時点で考えられる結論です。
ただ、「OPPOとXiaomiを含む中国企業製スマホが、アメリカ政府によっていきなり規制される危険性もゼロではない」と付け加えなければなりません。
なぜならば、「HUAWEIが中国企業でも、アメリカ政府が規制することはないだろう」と思われていたその「まさか」が、現実になった前例があるからです。
「中華スマホ」は本当に危険? 買っても良いメーカーは?
ここからは、筆者の私見ですが
- OPPO・Xiaomiを含む「中華スマホ」は本当に危険性があるのか
- 仮に「中華スマホ」を買えないなら、どのメーカーを選ぶべきか
について述べていきます。
「中華スマホ」の危険性は証明できないが、アメリカは止められない
先ほども述べたように、「いくらアメリカでも、そんな規制はしないだろう」という事が次々に現実になっています。
数年前は、「いくらHUAWEIが中国企業でも、アメリカが規制できるわけがない」と思われていましたが……現実になりました。
なお、5chやTwitterなどでは「中国企業が成長しすぎたから、アメリカの産業を守るためにターゲットにされたのだ」という意見がありますが、それは違うでしょう。
なぜなら、韓国のSamsungはスマートフォン出荷台数で世界一のシェアを持つにもかかわらず、まったく槍玉に上がることがないからです。
やはり、「国家安全維持法」の施行による香港での一刻二制度の形骸化や、台湾に対する圧力など、中国という国家のふるまいにアメリカ合衆国が対処せざるを得なくなったということでしょう。
そして、中華人民共和国の企業が、中国政府および中国共産党の支配下にあることは間違いありません(それが中国の制度ですから)。
だからといって、中国国外で販売する製品にまで何らかのバックドアが組み込まれているという証拠はないでしょう。
以下は2020年8月17日23時04分(日本時間)のReutersの記事です。
米、ファーウェイ半導体輸出規制を強化 新たに関連38社追加 - ロイター
トランプ大統領はFOXで、証拠を示さず、ファーウェイが米国民に対し、スパイ行為を行っていると非難。「われわれに対してスパイ行為を働いているため、米国でファーウェイの機器が使用されることを望まない」と語った。
つまり、HUAWEIが安全保障上の脅威、つまり中国政府のスパイ活動に加担する企業であるという証拠さえなく、OPPO、Xiaomiを含む「中華スマホ」に危険性があるとも言えないのです。
それでも、「アメリカ政府が『中国企業の製品には安全保障上の脅威がある』と言ったら、誰にも止められない」のが現実です。
「アメリカ合衆国こそが全世界の正義である」という、まるでハリウッド映画のような論理です。
なぜならば、Apple, Google, Amazonなど世界的IT企業は多くがアメリカに本社を置くため、アメリカ政府の意向に逆らえないためです。
HUAWEIのように「Googleのサービスを使えないスマホ」なら販売できるかもしれませんが、はっきり言って不便です。
OPPOとXiaomiが同様の状態にならないという保証はありません。
私としては、「OPPOとXiaomiが規制される可能性は低いが、心配ならば買わないほうが良い」と言うしかありません。
アメリカに規制される危険性がない国・企業は?
では最後に、「アメリカ政府に規制される可能性が低い、スマホを買っても良い国(地域)・企業」について考えます。
なお、主に日本国内で製品を購入できる企業を挙げますので、ここで述べていない国・企業が危険であるというわけではありません。
まずは国(地域)です。
- アメリカ
- 日本
- 韓国
- 台湾
日本国内で個人輸入などをせずに購入できるとなると、上記の国・地域が該当します。
日本と韓国はアメリカの同盟国ですし、台湾は公式には「中華人民共和国の一部」とされていますが、事実上の国家であり、アメリカ政府との関係が緊密です。
かつての日米貿易摩擦のように「同盟国の企業なのにターゲットにされる」ことはあり得ますが(そんなことを言い出したら全世界の国・企業が危険です)、「安全保障上の理由」で規制されることはないでしょう。
また、安心して購入できるであろう企業およびスマートフォンブランドは以下の通りです(特に有名な製品のみ記載します)。
- iPhone(Apple, アメリカ)
- Pixel(Google, アメリカ)
- Galaxy(Samsung, 韓国)
- LG(韓国)
- Xperia(SONY, 日本)
- SHARP(日本)
- Fujitsu(日本)
- Kyocera(日本)
- Zenfone, ROG Phone(ASUS, 台湾)
- HTC(台湾)
なお、アメリカのMotorolaは「安心してスマホを購入できる企業」には該当しません。
なぜならばMotorolaは親会社が中国のLenovoであるからです。
今のところMotorolaはOPPOやXiaomiと同じく、規制の対象にはなっていないのですが、「ある日突然使えなくなる危険性」を心配するなら買わないほうがいいかもしれません。
(中国以外の)世界はiPhone, Galaxy, Pixelに支配されるのか?
2015年頃から「コストパフォーマンスが良く、使いやすい」という理由で、中国企業のスマートフォンは世界的に人気を博しました。
しかし残念ながら、アメリカ政府が中国への対抗姿勢を強める中で、通信に関わる中国企業までもが規制対象となりました。
中国本土では別として、今後世界で生き残れるスマホは、アメリカとその同盟国の企業の製品のみとなりそうです。
具体的には、いずれもアメリカ企業であるAppleのiPhone、GoogleのPixelと、韓国SamsungのGalaxyです。
iPhoneの利用者が多い日本ではそこまで影響はないのかもしれませんが、「多様な企業が端末を販売できる」というAndroidのメリットが薄れるのは残念ですね。
なお、筆者もこのページで取り上げた報道を目にして、OPPO A5 2020を売ってGalaxy A7に買い替えました。
楽天モバイルの「バラマキ」のおかげで、ラクマで約1万円で新品同様の中古を買えたので満足ですし、個人的には韓国にもSamsungにも悪い印象はありません。
ただ、(中国を除けば)誰もがiPhoneとGalaxyを使う世界なんてつまらないし、自分がそのうちの一人になるのも不本意ですね。
スマートフォン黎明期のように、さまざまな企業がAndroid端末を販売する時代が戻ってくるのか、それとも中国企業への規制に伴って世界は多様性を失っていくのか……。
ガジェットファンとしてはこれからも注視し続けなければなりません。