まとめサイト問題の原因は? SEO偏重と著作権軽視から脱却を
無料で閲覧できる「まとめサイト」
2016年12月1日、大手IT企業・DeNA(ディーエヌエー)が、自社が運営する医療・健康情報サイトの「WELQ」(ウェルク)など8サイトの公開を停止すると発表しました。これらのサイトはいわゆる「まとめサイト」であり、生活に役立つ情報を読者が無料で閲覧できるものです。
- 【続報】DeNAが「WELQ」に加え8サイトを停止、“買い叩き”行為にも批判渦巻く(1/2ページ):nikkei BPnet 〈日経BPネット〉
- DeNA“まとめサイト”問題 “不正”指南マニュアルも……利益優先、質より量追求 (1/4) - ITmedia ニュース
ITmediaに転載された上記の産経新聞の記事によれば、以前から「化粧品でアトピーが改善」「乳酸菌はがん細胞の増殖を押さえ込む」など、信憑(しんぴょう)性が疑われる記事の掲載が相次ぎ、今年秋ごろからインターネット上では批判が目立つようになっていた
ということです。
つまり、最大の問題は「医学的根拠に乏しい記事が、大企業が運営する『まとめサイト』に大量に掲載されていた」ということですね。では、この企業はなぜそんなサイトを運営していたのでしょうか?
先ほどのITmedia・産経新聞の記事では、「広告収入を得ることが目的だった」と指摘されています。
近年業績が落ちていたDeNAは、現在も大きく伸び続けるネット広告費のさらなる取り込みに活路を見いだそうとした。だが、結果として「成長を追い求めすぎて、正しい情報提供への配慮を欠いた」(守安社長)。
言い換えれば、「医療・健康に関する情報を無料で提供すれば、多くの読者が集まり、運営会社は広告収入を得ることができる。しかし、広告収入を増やすことが目的になってしまい、読者ウケが良さそうなデタラメの記事を掲載するようになった」となります。
多くの無料サービスは広告収入で成り立っている
では、なぜ無料の記事を公開することが収入につながるのでしょうか? 無料サービスと広告の関係について考えてみて下さい。
代表的な無料サービスといえば、テレビ・ラジオの放送ですね。公共放送であるNHKやケーブルテレビ・CSなどの有料放送を除けば、原則として無料で視聴することができます。
番組制作には多額の費用がかかりますが、そのお金は視聴者ではなく、広告主(スポンサー)が支払っています。広告主が放送局にスポンサー料を支払えば、CMを見聞きした視聴者が広告主の商品・サービスを購入する可能性がありますから、視聴者は広告主を通じて間接的に視聴料を支払っているわけですね。
このように、「スポンサー・事業者・ユーザー」の三者で成り立つ無料サービスを「三点方式」と呼びます(西川りゅうじん著『「0円」で億を稼ぐ! 「タダ」よりすごいビジネスはない』マガジンハウス、2008年、137ページ)。
視聴率が高い番組に広告を出せば、多くの視聴者が商品を買ってくれますから、多くのスポンサーが集まりますね。その結果として広告料が値上がりし、放送局の収入が増加します。
インターネット上で公開されているブログ・ウェブサイトも、テレビ・ラジオ番組と同じように広告収入で運営されており、ユーザー(読者)が多く集まれば運営者はたくさんの広告収入を得ることができます。
需要が高いサイトには有益な情報が掲載されていますから、ユーザー(読者)の利益につながります。問題はインターネットはテレビ・ラジオ放送よりも法規制が少ないため、デタラメな情報を発信することもできることです。
まとめサイトにはこんな問題がある
「まとめサイト」を運営していた企業は、意図的に誤った情報を発信していたわけではないのでしょう。情報がデタラメだとバレてしまえば、ユーザーの信頼を失って、企業の損失になるからです。実際に前述の企業は8つの「まとめサイト」を廃止することとなり、経営陣が謝罪する事態に追い込まれています。
この企業が運営していたものを含む多くの「まとめサイト」が信憑性の低い情報を発信した原因としては、次のような事柄を挙げることができます。
- SEOに偏重したサイト作り
- 著作権を無視した文章・画像の無断転載
実は、「まとめサイト」の記事を作成するためには、特殊技能は一切必要ありません。サイトを訪れそうなユーザーが検索する「キーワード」を一定量盛り込んだ文章を執筆し、見栄えが良い画像を掲載すれば良いため、ライターとしての経験がない素人が行うことも可能です。
では、「まとめサイト」を作るために必要な手法と、その問題点について解説します。
SEOとは何か?
SEOとは、「Search Engine Optimization」、つまり「検索エンジン最適化」を意味する略称です。ウェブサイト・ブログを作成する際は、適切なSEOを実施することにより、より多くのユーザーを獲得することが見込めます。
たとえば、「新宿に良い美容室はないかな? そうだ、インターネットで調べよう」と考えている人がいるとします。この人はGoogleやYahoo!などの検索エンジンで「新宿 美容室」という言葉で検索しますね。この「新宿 美容室」のように検索する時に使う言葉を「キーワード」と言います。
このように、検索エンジンにはキーワードに合致したページが一覧表示されます。ただ、何万も何億もあるページの中から多くのユーザーを獲得するのは簡単ではありませんから、SEOを実施して「上位表示」、つまり検索結果の最初のほうにページが表示されるようにする必要があります。
SEOを行うためには、キーワードを適切な分量で文章の中に盛り込む必要があります。この例では、以下のような文章を執筆します(このブログ記事自体がキーワードの対象と判断されては困るため、画像として掲載しています)。
こちらの文章は、やや「新宿」というキーワードが多すぎるものの、お店を紹介する内容になっていますね。このページを見た人に「ABCサロンという店があるのか。問い合わせてみよう」と思ってもらえる可能性がありますから、(実在する店であれば)適切なSEO文章であると言えます。ついでに広告収入ももらえれば上出来です。
一方、次のような文章はアクセス増・広告収入のみを目的としたSEOであり、有益な情報とは言えません。
どうでしょうか。執筆者の「とりあえずキーワードを入れておけば良いだろう」という意図が感じられませんか? こんな文章を読んだところで美容室選びには役に立ちませんから、明らかにアクセス数・広告収入だけが目当ての不適切なSEO文章です。最後の方で一応「ABCサロン」を紹介していますが、本当におまけ程度ですね(ひどい場合は、キーワードとはまったく無関係な文章になることもあります)。
冒頭で取り上げた有名企業のまとめサイトは、安い報酬で外部のライターに記事を執筆させていました。具体的な金額はわかりませんが、ITmedia・産経新聞の記事では2000字の記事で報酬は1000円ほど
と言及されています。
私・ふみびと自身の経験では、パソコンのキーボードを使ってしっかりした内容の2,000文字の文章を書こうとすると、1時間はかかります。根拠となるウェブサイトや書籍を探す場合は数倍の時間がかかりまし、図書館で専門書を参照する必要があれば、数日かかるかもしれません。ただし、いくら時間をかけても報酬は1,000円です。
反対に、内容をまったく考慮せず推敲もしなければ、2,000文字の文章は20分程度で書けます。作業時間と報酬が比例しないならば、「深く考えずに適当な内容の文章を書いてしまおう」という人が出てきてしまうのではないでしょうか?
まとめサイト運営企業がどうやってライターを雇ったのかはわかりませんが、ライターとしての経験が浅い人が多かったのかもしれません。サイトの性質を考えるとSEOを重視するでしょうから、依頼内容は「キーワードに沿った文章を書いて下さい」というものだったはずです。その結果でき上がったのは「キーワードとは無関係」または「キーワードについて述べているが、根拠に乏しい」SEO文章だったと考えられます。
素人ライターによる著作権侵害
上記の例文2のような「SEOのみを目的とした不適切な文章」がまとめサイトにあふれた問題は、前述のように安い報酬で素人ライターに依頼したことが原因です。場合によっては人命にかかわる医療情報を、その真偽を判別できない素人に書かせたために、今回の問題が起きてしまったのです。
専門知識がない人に安い報酬を提示して「医療記事を書いて下さい」と頼めば、医学書を読んだりせず、ネット上の医療情報をコピーした文章を書くでしょう。コピー元の情報が信頼できればまだ良いのですが、ネット上には根拠が怪しい情報もあふれています。そして、まとめサイト記事の執筆者にも、それを審査するスタッフにも、医療情報の真偽はわかりません。
ここで、もう一つの問題が生じます。それは他人が書いた文章を無断コピーして使う著作権侵害です。素人が最新の医療情報を知ることは難しいですから、ネット上にある文章を参考にすることになります。その際、元の文章を書いた人の許可を得なかったり、ひどい時には元の文章とまったく同じ文章を、自分が書いたことにするといったことが起きてしまいます。
インターネットが普及してから、大学では学生による「コピペ論文」が問題になっています。コピペとは「コピー&ペースト」、複写と貼り付けです。インターネットで閲覧できる論文をコピーして、自分が書いたものとして提出する行為を意味しますが、同じことがまとめサイトでも起きているのですね。
さらに、文章に加えて、他人が作成した画像を無断で使用するといった著作権侵害も発生しています。画像は文章よりもさらに簡単にコピーできますから、まとめサイトに掲載するのも容易です。
まとめサイトのメインは飽くまでも文章ですが、長い文章が続くと読者が退屈してしまいます。そこで、文章に関係する画像を盛り込んで見栄えを良くすることが求められるのです。
まとめサイトを改善する方法
ここまではまとめサイトの問題点について取り上げましたが、私個人としては、まとめサイトは全廃せず、品質を向上させた上で残したほうが良いと思います。
なぜならば、無料で有益な情報を手に入れられることこそがインターネットのメリットですし、まとめ記事の執筆という仕事ができることで、自宅で働く「テレワーク」「SOHO(ソーホー Small Office/Home Office)」の促進につながるためです。
では、まとめサイトの品質を向上させるにはどのような取り組みが必要でしょうか? 執筆者と運営者、そして読者という双方の立場から考えます。
執筆者・サイト運営者に求められる取り組み
繰り返しになりますが、今回のまとめサイト問題の原因は「SEO偏重」と「著作権侵害」ですから、この2点を真っ先に改善すべきです。
まず「SEO偏重」ですが、検索エンジンで上位表示させることを目的としたSEO自体をやめることは現実的ではありません。どれほど役に立つ情報であっても、上位表示されなければユーザーの目に触れることがないためです。
問題はSEOそのものではなく、キーワードとページの内容が一致しないこと、たとえ一致していても信頼性が低いことです。ですから、「質が高いページを作る」ことこそ問題の解決策になります。
最低限、執筆者には文章の中にただキーワードを盛り込むだけではなく、そのキーワードで検索した人の役に立つページを執筆することが求められます。医療のような専門的な情報に関するページを執筆するのであれば、できれば専門家自身に執筆または監修してもらうべきですし、それが無理ならば信頼できる情報源を根拠にするしかありません。
人件費がかさんでしまいますが、運営会社もライター任せにするのではなく、文章のチェック体制を強化することが大切です。
私も少しだけ「まとめサイト」の事情を知っていますが、2014年頃であれば、このページに載せた「例文2」のようなデタラメな文章を買い取ってもらうことが可能でした。ただ、情報の質を高めること以外に問題を解決する方法がない以上、これからは「楽にお金を稼ぐ方法などない」と覚悟するしかありません。
また、「著作権侵害」は「出典元の明記」を徹底することで防げます。たとえば「ある本を1ページまるごとコピーしてウェブページにする」といった場合は著者に許可を取らなければなりませんが、ほんの数行コピーするだけならば「引用」扱いになり、出典を明記すれば著作権法上は著作者の許可が不要となるためです。
信頼できる情報源からの引用を徹底することで、コンテンツの信頼性も高まることが期待できます。
読者のリテラシー向上
一方で、読者の側にも情報の真偽を判断するための「情報リテラシー能力」が求められます。
インターネットに限ったことではなく、テレビ・ラジオや新聞など従来型のメディアも対象となりますが、ある情報に触れたらまず「この情報は正しいのだろうか?」と疑って、複数の情報源でその真偽を確かめることが大切です。
中には、政党の政策や娯楽作品の評価のように「Aさんにとっては正しいが、Bさんにとっては間違っている」、あるいは「専門家の間でも意見が分かれている」という情報もありますから、「現在の自分にとって正しいか」「『真偽を断定できない情報』として保留すべきか」ということまで考えたほうが良いかもしれません。
また、人間には「自分にとって都合が良い情報は鵜呑みにして、都合が悪い情報は疑う」という性質がありますから、どれほど自分にとって良い情報であっても、悪い情報と同様に吟味することが必要でしょう。
密告のようになってしまうのは良くありませんが、不適切な記事を見付けたらすぐに読者が運営会社に連絡するという取り組みも必要だと思います。今回の「まとめサイト」問題も、ユーザーからの指摘が相次いだために明るみに出ました。
インターネットは双方向メディアであり、誰もが情報の発信者になれるのですから、参加する一人ひとりがその質を高めるために努力することが重要ですね。