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韓国ユン大統領の名前はソギョルとソンニョルのどっち?

2022年5月10日に就任した韓国大統領の名前に複数の表記があり、韓国のみならず日本でも話題になっています。

韓国新大統領の名前は「ソクヨル」でも「ソギョル」でもなく「ソンニョル」?

2022年5月10日、大韓民国(韓国)の第20代大統領に尹錫悦氏が就任しました。

私はNHKラジオのニュースで就任式の様子を聴きましたが、(日本の)アナウンサーが読む尹錫悦氏の名前に何か違和感を覚えました。

なぜなら、NHKニュースではそれまで尹錫悦氏の名前を「ユン・ソギョル」と読んでいたのに、5月10日から「ユン・ソンニョル」に変更されたためです。

なお、3月に行われた大統領選挙の頃は、読売新聞・朝日新聞は「ユン・ソクヨル」と表記していました。

尹錫悦氏の名前は一体どの読み方が正しいのでしょうか?

韓国における漢字の読み方

まず、第20代韓国大統領の漢字表記が「尹錫悦」であることは間違いありません。

現在の韓国では漢字はあまり使われませんが、「住民登録証」には漢字氏名が記載されますし、ニュースでは与党・野党を「與・野」、日本を「日」など漢字一字で表記することもあります。

そして、基本的に韓国では漢字のハングル表記は一種類しかありません(約90種類の漢字は例外。たとえば「金」は「キム」または「クム」)。

そこで、漢字「尹錫悦」をハングルに直すことで、正しい読み方がわかるはずです。

尹錫悦をハングルにして読むと?

まず、「漢字をハングルに変換するツール」を使って尹錫悦のハングル表記を調べました。

日韓翻訳日中翻訳/漢字(日本漢字・簡体字・繁体字)及び韓国語読み(ハングル)・ピンイン変換

尹錫悦のハングル表記は「윤석열」です。

詳細は省きますが、ハングルは一文字が「子音・母音・子音」で構成されています。たとえば 김 は「子音k・母音i・子音m」の組み合わせで「キム」と発音します。

そして윤석열の3文字を順番にカタカナ表記すると「ユン・ソク・ヨル」となります。

ですから、日本の新聞報道で見られた「ユン・ソクヨル」という表記も間違いとは言えないでしょう。

ただ、英語などと同じく韓国語では子音と母音が連続すると繋げて読むため、「ユン・ソギョル」のほうがハングル本来の発音に近いと言えます(もっとも、석열に含まれる「オ」「ヨ」が日本語にない発音であるため、正確にカタカナ表記するのは不可能です)。

これで解決……と思いきや、「ユン・ソンニョル」という読み方がどこから出てきたのかわからないままです。

そこで韓国のポータルサイト・NAVERで検索したところ、意外な事実が明らかになりました。

本来は「ソギョル」だが本人の希望により「ソンニョル」に?

実は、尹錫悦氏の名前の読み方は韓国でも話題になったようです。

韓国最大の新聞・朝鮮日報系のニュースサイト”Chosun Biz”の2022年3月14日付けの記事で詳しい経緯が取り上げられていました。

윤서결? 윤성녈? ‘윤석열’ 정확한 발음에 국립국어원의 답은 - 조선비즈

この記事によると、韓国・国立国語院のサイト「オンラインカナダ」(ここで言う『カナダ』とは国ではなく『五十音』のことです)に、「次期大統領の名前の読み方は『ユン・ソンニョル』と『ユン・ソギョル』のどちらが正しいのか?」と質問がありました。

それに対する国立国語院の答えは「『ユン・ソギョル』が正しい。しかし人名など固有名詞の発音は厳格に規定されていないため、『ユン・ソンニョル』が間違っているという根拠はない」というものでした。

そして、尹錫悦氏は幼い頃から『윤성녈』(ユン・ソンニョル)と呼ばれており、本人もそう呼ばれることを好んでいるようです。

記事によれば、『肋膜炎』が『늑막염』から『능망념』に変化するように、「合成語を発音する時にn音を加える法則」(詳細は割愛)は韓国語でよく見られ、尹錫悦の名前に限ったことではありません。

つまり「韓国では本来『尹錫悦』を『ユン・ソギョル』と読むが、慣例的な『ユン・ソンニョル』という読みもあり、本人の希望でそう呼ぶことになった」のです。

ただ、私が知る限りでは、韓国で人名を漢字本来とは異なる読み方で呼ぶ事例はほとんどありません(漢字名がなく、ハングルでしか表記しない人は除きます)。

本来と異なる読みの人名は日本にもある

韓国の新大統領の名前の読み方が変わったのは、「本来は『ユン・ソギョル』と読む『尹錫悦』を、本人の希望で『ユン・ソンニョル』に変えた」という珍しい理由によるものでした。

ただ、人名や地名の読み方が、辞書などに載った本来の読み方と異なるケースは、日本でも見られます。

たとえば、「前原」という名字は「まえはら」または「まえばら」と読むことが多いですが、九州では音が変化して「まえはる」「まえばる」となります。

また、「小鳥遊」という名字は「たかなし」と読みます。「鷹がいないので、小鳥が遊べる」ということです。

もちろん、ほとんどの漢和辞典には「小」を「た」、「鳥」を「か」と読む……とは書かれていませんが、小鳥遊さん自身が「私の名字は『たかなし』だ」と言えば、他人が否定することはできません。

「前原」さんも、読み方が「まえはら」「まえばら」「まえはる」「まえばる」のいずれなのか(それともさらに別の読み方か)は、本人に尋ねなければわかりません。

名字ほどの歴史はありませんが、いわゆる「キラキラネーム」も、「漢字に本来の意味・読みとは無関係な音を当てているから、間違いだ」とは言い切れないでしょう。

結論付けると、「本来の読み方とは異なる人名」は音声学的・歴史的に何らかの理由があって生じるもので、『尹錫悦』が『ユン・ソギョル』から『ユン・ソンニョル』に変化したのもその一例ということです。

尹錫悦氏の詳しい情報はこちら

尹錫悦氏(の名前の読み方)については、日本語版Wikipediaにも詳しく記載されています。

尹錫悦 - Wikipedia

タグ: 韓国 政治